プロローグ

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 ありもしない痴漢の罪で立件されてしまった。明日あたりには出頭を促されることだろう。  ミミズのぬったくったような字で書いた遺書も用意した。後は死ぬだけである。字が汚いとか余計なお話である。字は読めれば良いのだ。  なぜ、わざわざ死体の処理に迷惑をかけるような、飛び降り自殺を選んだのか? 理由は簡単だった。  目の前に見えるビルが検察庁の建物であり、抗議の自殺である。中国のチベット自治区でも抗議の焼身自殺があるとかないとか。  僕には遠い世界の出来事だけれど、模倣することを決断するのに時間はいらなかった。即断即決がモットーの僕である。  呪う気はさらさら無いけれど、『呪われる』と勘違いしてくれれば重畳である。病は気からというように、思い込みが現実を凌駕することはままあることなのだ  死は怖くないのかという疑問に対して、どう答えるべきなのだろうか? 正直、ぶっちゃけ、心の底から言わせてもらえば、少しも怖くない。  強がりでもなんでも無く、陰陽師としての素質があり過ぎた。そのせいで、無意味に冤罪でしょっ引かれることにはなったのだけれど。  あの世と言うべきか、死後の世界と言うべきか、はたまた天国と言うべきか、個人の宗教によるところが大きい。  死後の世界では、その世界の番人である閻魔様が全権を握っている。  閻魔様に謁見するにはまず、12の高官全てに承諾されねばならない。その試練を乗り越えた僕は生きながらにして、その閻魔様に謁見し認められた。  つまり前世の知識を持ちながら輪廻転生をする権利を得たのであった……。
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