148人が本棚に入れています
本棚に追加
御託もここまでにして、さっさと飛び降りようか。
ビルの屋上から地上を眺めると足が竦む。不退転の決意も鈍りそうだ。
しかし、今生に未練は無い。齢二十四の身空であったけれど、その半生は幸せだったと思う。次の生は幸福であることを願おう。
屋上の縁に立つべく、僕は勇気を振り絞る。そして僕は2mの緑色フェンスを越えた。
――と思いきや……屋上の縁が凍える寒さで凍っていた。摩擦係数が限りなく小さな足元は、容赦なく僕を階下へと誘って行ったのだった。
滑って落ちたとは、口が裂けても言うまい。
……走馬灯のように蘇る僕の記憶たち。
……妻と子供の顔。
……年に一度の旅行。
……そして忌まわしき事故。
……反対車線から飛び出して来たトラック。
……無惨にも鉄屑となった乗用車。
……不運にも助かった僕。
……歪められた事故原因。
……揉み消された事故事実。
……取り残された僕。
現実なんてそんなものだ。期待はしない。
ただ血の後だけが僕の全てを語っていた。
最初のコメントを投稿しよう!