プロローグ

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この整備士が、有給の消費がてら運転手を兼ねて比野のお使いに付いてきてくれたのは、自身の双子の弟の顔を見に行くことも兼ねてのことだった。一時はAMWの機士を目指していたが、身体が弱かったせいでその夢も敵わず、最近になって等々病院暮らしになってしまった彼とは、比野も何度か面識がある仲だった なんというか、この兄と変わらず変わった人物である 「相変わらず車椅子で顔色も悪かったけど……廊下を元気にドリフトしてたから土産渡すの辞めてやったのだよ。あいつはもう少し自分の身体を労わるべきなのだよ」 カロリー摂取量の調整故致し方なし、と、件のお土産であるどこにでもありそうな饅頭の包みをびりびり開けて食べ始めてしまう。「んっ」と一つ差し出され、弟さんに悪いと思いながらも頂く、味は中々の物で、向こうの空港を出る際に適当に選んだと言っていた割にはしっかり選んでいるなと比野は咀嚼しながら思った その横で三つめの饅頭を口に詰め込んだ原は、何か思い出したような顔をしてメモ張を取り出して、ペンでこんこんとカレンダーの欄を比野に見せた。ごっくんと飲み込み、「機士科定期訓練日」と書かれたそこの赤い丸印をなぞるようにペン先をぐるぐるさせて 「体調管理ができない愚弟のことはどうでもいいのだよ。それより日比野は向こうに着いたらそのままサバイバル訓練だったと思うのだけど、大丈夫なのだよ?」 どうやら、急な仕事の後での訓練で身体を壊さないか心配しているらしい。別段、そこまで辛かったわけでもないし、ここでどう言ったところで訓練の日程は変えられないので、聞かれても答えは変わらないのだが……顔に似合わずちょっとお節介焼きで優しい彼に、比野は口の中の饅頭を缶コーヒーで流し込むと、自信有り気に言った 「大丈夫ですよ原さん。齢”一七歳”と言っても僕だって一端の自衛官ですから、このくらいどうってことないです!」 若いって言いなぁ、と原は無非常のままうんうん頷きながら饅頭のゴミを纏めて屑篭に放り込むと、比野を連れ添って搭乗口に向かうのだった
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