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悶絶しのたうち回る比野を見下ろし、格闘ゲームにでも出演してそうな筋肉男はやれやれと素振りを振り
「本当に寝呆すけだな貴様は、起き掛けに頭を打つとは」
「九割くらい剛のせいだよ……」
「お前が起きないのが悪い」
仰向けの真上から低い男の声に、痛みが引き始めた比野が返すと、目の前の角刈りヘアーで無愛想な長身男、安久 剛が仁王立ちの姿勢のまま真二つに裂いた寝袋をそこらにぽいっと放った
「……おはよう剛」
「ああ、おはよう」
挨拶しても、いつも通りの顰めっ面と馬鹿力である。比野がよっこいしょと起き上がり並び立つと、同じ野戦服なのに、少なくとも所属科が違うんじゃないかとすら思えるほど印象に差異がある
野戦服よりも学生服が似合いそうな比野と、野戦服の下から道着姿が出て来てストリートファイトを始めても違和感のない大男である。ちなみに、大男こと安久 剛は、乗用車をボーナスステージのように破壊できることがすでに確認されている――比野は、この間ベンチプレスをしてバーベルを胸部に乗せたまま動けなくなっていたりする
「というか寝袋が……うわぁ」
比野はもはや袋ですらなくなった寝袋を見て深い溜め息をついた。春の沖縄とはいえ夜は以外と寒く、使い心地はこんなんでもこの寝袋には大変世話になったというのに……今日で最後とは言えど、どこか物悲しくなる
という哀愁など気にもかけぬ様子の剛
「まったく、ラジオも点けっぱなしではないか。そもそも、あれほど言ったのに夜更かしするとは……貴様、訓練を舐めているのか?」
「いやぁ、あのリスナーの一人語りがいつ聞いても聞き入っちゃうんだよね」
「うるさい! 何が現代風赤頭巾ちゃんだ! ただブラックユーモアを低音で音読してるだけだろうが!」
「それが面白いのに……」
その後もこの現代風ストリートファイターは基礎がなってないだ規律の大切さだ若者の性の乱れだのと説教を始めた。何故に毎朝毎朝、わざわざ剛が起こしに……もとい寝袋破壊と説教をしに来るのだろうか、お前は僕のお母さんか……とは声に出さない。怒らせると説教が伸びるからだ
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