#1 機士科のお仕事

9/25

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
さらに言えば、自身のトレーに乗っていた残りのハムと二枚とサラダが消え失せていたことも笑えないと比野は口元をひくつかせた。いつの間に食べたんだこいつ 「じゃ、俺は先にテント解体しに行ってくるから……明日は寝坊するなよ?」 と、特に悪びれることもなくそう言うとトレーを手早く片付け、先ほど僕が通ってきた雑木林へと速足で駆けて行った。手際、口実、どちらをとっても見事な盗難っぷりであった 無音になった広場に取り残された比野の手元には半分ほど食べた原材料不明のカレー味レーションと、空のトレーが一枚……もちろん、食べ盛りの朝食には少しばかり足りない 「ふ……慣れたさ」 少し気取ってみた。虚しいだけだった。無言でレーションをかき込んだが、今度は味覚が虚しくなった 取られたら取り返せとも言うが、志度は怒らせると物理的な意味で面倒なので、奪われた朝食は諦めざるを得ない。ボーナスステージのできるできないでこれだけの格差があるとは……と、比野は自分の二の腕をにぎにぎしながら思った 「僕も筋トレメニュー増やそうかな……で、なんで朝っぱらから茂みに潜んでるんです?」 「あら、別に潜んでなんかないわよ」 そこに、なぜだか近くの茂みから大振りのナイフを、柄につけたストラップでぷらぷらさながら比野の同僚その三が登場した。口には咀嚼中の食パン、傍らには五十センチほどの木彫りのパンダ。口には見事な荒鮭が咥えられている
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加