#1 機士科のお仕事

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――何かがずれていたが、そちらを言及すると何をされるかわからないので比野は粗鮭パンダをスルーした 「いやねぇ、こうインスピレーションが働いちゃって、早起きしたついでに一作業……ね?」 「いや、ね? なんて言われても早起きってだけで朝っぱらから牛の首落とせるナイフで彫刻彫ることに同意の念は抱けないんですけど、時間は有限なんですよ?」 「寝坊したせいで朝ご飯なくなっちゃった比野ちゃんに言われたくないわねぇそれ」 先ほどの志度と同様に、至極もっともな事を言い返して比野を沈黙させた、野戦服が……訂正、何を着ても似合いそうな女性は大袈裟な素振りで天を仰ぎ、芝居の掛かった調子で 「ああ、哀れ少年は事務仕事が残るこの午前をお腹ぺこぺこのまま過ごさなければならない……なんて、すごく可哀想だわぁ」 とかなんとか言って、頭一つ分ほど低い位置にある比野の顔を覗き込んでにやにやした。何をしても様になる人物だ 「哀れとか可哀想とか言うくらいなら、その手で弄んでるパンを下さいよ……」 「ふふ、どうしようかしらね」 そう言いながら空いた手に持っていた二枚目のパンから耳を、その牛の頭どころか極太の丸太を横一閃で真二つにしたことさえある自称ナイフ……とは別の折り畳みナイフで削ぎ落とした耳だけを口紅で薄い赤にした口に運んでいるのは、短髪茶髪に超絶プロポーションを持つ女性、宇佐美 友だ 今のご時世、珍しく無くなりつつある女性自衛官で、掴み所のない不思議人格と凄まじい剣術の持ち主である。こんな所にいないでモデルか道場でも経営してれば良いのに……というのが大多数の男性自衛官の意見だが、この先輩を野に放つのは自衛隊としての職務怠慢と言われるかもしれない 事例としては、不機嫌な宇佐美さんにちょっかいを出した自衛官が背中を見せた直後、方法は不明だが後ろ髪を綺麗に剃られてしまったと言う噂がある――当の本人は 「どうかしらね~……年下の可愛い男の子が背中に隙を見せたら襲っちゃうけどね」 と、妙に妖艶な表情をしながら本件とはまったく関係ない爆弾発言をしたのはまた別の話。それから数日間、比野と志度の間で同盟関係が結ばれたのも別の話 この先輩を一言で表すと、変人である
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