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宇佐美さんの変態度合の説明で話が微妙に反れてしまった
「うん、まぁそこまで言うなら食べる?」
一応は同情しているのか、先ほど耳を削ぎ落としていた耳がない、綺麗にサンドイッチ用になってしまったパンを差し出してくれた
「どうもです。有り難く頂きます」
お礼をしてからその一枚を受け取る、そして
「……ついでにおかずもくれませんか?」
ねだってみた。巷で志度と並ぶ破壊力を持つといわれた上目使い&涙目、自分で言うのもなんだが、あざとい。が、これで志度に奪われた分を補充できるのなら安いものだ……と比野は何か大切なものを失いながら、目から清楚な怪光線でも出しそうな表情を浮かべた――しかし
「今の比野ちゃん、すっごく可愛いけど作業する前の食べちゃったの、夜のオカズなら喜んで提供してあげるけど?」
ただ断るだけでなく、とんでもないことを口走る公務員だった。クビになってしまえ
「謹んでお断りします」
一瞬で真顔に戻り、仰角四五度の角度で礼をして拒否するとちぇー、春は思春期の季節なのにー、とか良くわからないことを言い残して宇佐美さんも去って行った。ストラップを支点に刃渡り三十センチはあるナイフを回転させながら……鞘なんてものは着いておらず、刃に触れた傍らの草木がすっぱすっぱと斬り飛んでいた
「……いつも思うけど、あれって携帯許可下りてるのか?」
もっともな疑問だと思うのだが、あの人は頭のネジの危ない奴が一本抜けているので、常識で考えてはいけないのかもしれなかった。銃刀法の方は仰々しい許可証を見せびらかしていたので大丈夫のようだが……いや、気にしたら負けなのかもしれない
ひとまず、貰った耳無しパンをもそもそ食べる。このキャンプにジャムなどと言う嗜好品は置いていない上に焼いてすらいないので凄く、味気ない……ふとレーションを載せてみようかとも思ったが、どうにも相性が悪そうなので別口で食べることにした
(朝からパッとしない食事になってしまった……)
そう自覚すると、心無しかさらに気分も胃の中も虚しくなった。これからこの状態でデスクワークか……と一息ついた比野はそこで、いつも自分の傍にいる同僚その四の姿がまだ見えないことに今更ながら気づいた
比野は少し考えると、わざとらしい口調で
「さて、朝食はもういいとして僕もテント片づけに行こうかな――」
「……すとっぷ」
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