#1 機士科のお仕事

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「というか、志度と話してるときにでも出て来てくれれば良かったのに」 「ご飯盗られちゃうから……」 同じくらいの背丈と外見年齢の同僚を警戒して隠れていたらしい。ちなみに、過保護軍団は志度にも結構甘いのだった。どうして同年代の比野には厳しいのかと一度、直接の上司に訊ねてみたこともあったが「お前は見た目の割に中途半端に熟成されてるから上級者向けなんだよ」と比野にはよく解らない比喩で答えられた ちなみに寝坊の原因は数少ない持ち込み可だった物であるラジオで、ついつい好みの番組があると夜更かししてしまうというのが、逆に中途半端に残った子供の部分なのかもしれない 閑話休題、一応、比野としても寝坊の頻度を減らそうと努力はしているのである。この言い方だと誤解を招きそうなので合えて弁明しておくと、比野は言われるほど寝坊を頻繁にしているわけではないし、したとしても遅刻をしているわけでもない――ただ、数分前行動などの範囲に食い込んでいるだけである しかし、結果的に心視が空腹を訴えはしなくとも、お腹を空かせているという事実が外野に届くのは怖い。特に、中年管理職組という名の部隊長を除いた上司組の過保護具合は殺人レベルである。それはすなわち、罪悪感を感じる暇さえ与えられないレベルなのだ 数回に渡ってそれを掻い潜って来た身だからこそ解るレベルなので、常人にはきっと理解されないだろう……以前、社会的にも物理的にも業務的にも排除されそうになったことを思い出して、比野は少しブルーになった 「……ごちそうさま」 原因となっている身で言うのも難だが、心視にはもう少しゆっくりと食事をするように言い聞かせた方が良いと比野は、せめてもの詫びにと心視のトレーを片づけながら思った。三人前をぺろりと食べ切るような成長期真っ盛りの身体には、明らかに健康に悪影響だ 「心視、遅れた原因の僕が言うのもアレだけど、もう少しゆっくり食べような」 「……うん」 「もう寝坊しないように気を付けるから、二人でゆっくり食べような」 「……うん」 「ところで僕の食べかけのパンが消えてるんだけど、その膨れた頬となにか関係ある?」 「……たべかけ……」 結局、この訓練キャンプ最後の食事で比野が有り付けたのは、カレー味レーションと耳無しのパン半分だけ、いくら幼馴染の頬をびよんびよん伸ばしても腹は膨れないのだった
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