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その後、外出届はすんなり通った。部隊長がニヤけ顔で「若いっていいなぁ」とかほざいていたが、比野はいつか背中を撃ち抜くという、常日頃から抱いていた決意をさらに固めただけで特に何も言わず。心視はいつも通り、つまり無視だった
「無視とかお父さん悲しいなぁ!」とか言う中年男性の叫びは、扉によって半場強制シャットアウト
正門ならぬ即興の小門までの間、比野と心視はいつものように世間話をする
「緊急事態緊急事態って言うけど、ぶっちゃけ僕らってこれくらいでしか出動しないよな」
「……誰かの尻拭い専門……?」
比野は思わず、やめてくれ悲しくなる、と言いかけて、止めた。口に出すともっと悲しくなりそうだった。そしての僕達の出番が多いこの国の治安は一体どうなっているんだろう……と、結局ブルーな気分になった
はぁぁと愚痴の変わりにため息をついた比野の横顔をじっと見ていた心視は、突然早歩きになると比野の手を取って引っ張り始めた――比野はおっとっとと姿勢を崩しかけ、一度止まって心視の手を離した。頭上にクエッションマークを浮かべた心視が、またてててっと駆け寄ってきて比野を引っ張ろうとする、比野はそれを叩き落として迎撃
「子供か己は、なにをそう急くんだよ。さっき食べたばっかりだから腹は空いてないだろ?」
「……ため息ばっかりしてると駄目人間になるって宇佐美が言ってた……そうなる前に気晴らし……!」
「あの人の言うことをあんまり真に受けるなよ……あーあー服の裾伸びちゃうから離せって」
「……どちらにせよ、ひーが元気ないのはよくない」
言うと、今度は服をぐいぐい引っ張り始めた。どうも、明らかに不機嫌になった同僚を励まそうということらしい。こういうところもまた犬みたいな奴だと、前のめりになって半場引き摺られながら比野はやや困り顔をしながら思った
「わかったから制服を引っ張るなよ、伸びちゃうって、駄菓子は逃げないから」
「服は洗濯すれば戻る……過ぎた時間は戻らない……!」
いや、そういう哲学的な問題じゃないから――と思いながらも、もはや反論は諦めた比野は抵抗も無く心視のなすがまま敷地の外へと引っ張られていった
……このやり取りをこっそり聞いていた警備担当のまだ若い自衛官が、雄叫びを上げながら壁を殴っていたのは、もはや駆け足で出ていった二人には知る術がなかった
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