#1 機士科のお仕事

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『はいはい、マッチョのツンデレは結構だ。ほんじゃま、型落ち車両でも、せめて伝書鳩役くらいは勤めるとするかな。後続のお呼び出しは任せといてくれ――有線通信カット、以後の戦闘判断は安久 剛一等陸尉に一任する……なんてな』 「了解、通信終わり」 通信が切れる直前、じゃ、あんまり無茶すんなよーと言い残して、指揮車両から伸びていた有線回線が切り離された。剛はサブカメラに映る指揮車両が後方へと走り去るのを見届けてから、AIに機体出力を待機状態から戦闘出力まで引き上げるよう指示する。鉄の猛獣が眠りから覚めるように、待機状態だったパネル、モニターに光が灯る。Tk-9の各部関節部に火が入り、AIが起動手順と点検を全自動で済ませて行く その間に左右のフットペダルを一回づつ踏む、いつも通りの踏み心地。計器、異常なし。首周り防護コルセット及びヘルメット……アタッチメントでしっかり固定されていることを確認。最後に深く息を吸い深呼吸、左右両側の操縦桿を二度ほど握り直してイメージする――ここまでが、ベテラン機士である安久 剛風の刷り込まれた精神統一であり、絶対の儀式であった 「……ハァッー」 イメージは固まった。六機の賊の首を、自身の持ち得る限りの技量を駆使して刈り取る……旧式相手とは言えど油断も容赦もしない、するのは降伏勧告だけ――そしてアラームが鳴り、AIが全ての戦闘準備が整ったことと、敵目標が狩場に到達したことを知らせた 《敵勢力 警戒ポイントに到達》 「……状況開始」 《了解 機体出力 アイドルからアクティブへの完全移行を確認 以降本機は敵AMWに検知されます 機体及び装備状況オールグリーン 御武運を》 機体チェックが終わるや否や両操縦桿を押し倒し、フットペダルを思い切り踏み込む――機体速度と比例する速度で後方に流れていく木々が途切れると、左右の森林が囲む道を進むトラック群が目に映った。森林に潜行しているらしいAMWの姿は目視できないが、問題はない。自分たちがすでに発見されているとも気づかずに、現在も移動を続ける目標の位置情報は完全にこちらの手の中だ 「――さぁ、仕事の時間だ」 待機姿勢から“滑るように”加速したTk-9は、テロリストらの行く手を遮るように、その眼前に颯爽と躍り出た
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