プロローグ

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数十年前ならいざ知らず、パーツ単位ならば簡単に運び込むことができ、更にその場で組み立て、起動することができるほどメンテナンス性が高く、手持ちの銃火器を使わずとも内蔵の対人火器、例えばオプションの機銃でも横に薙げば数十人の生身の兵など一瞬で肉片にできるような、そんな強力な兵器が今や世界中で戦車なんかよりも多く運用されているこのご時世には、あまりにも間抜けな対応だった 剰え、その矛先が一般市民に向けられて居たというのに、それを別段気にしているわけでもない 今回、自分が本当に偶然に駐屯地に事務関係で立ち寄っていて全員不在だったパイロットの代わりを無理を通して務めたから大惨事にならなくて済んだが、下手をすれば現場の救出部隊は入口を通せんぼしていた素手のAMW”ヘッツ”に手も足も出せず、民間人をむざむざ殺され、人質を連れたテロリストを取り逃していたかもしれなかったのだ (だというのにこの人は……) この自衛官の頭の中では、テロリストなんていうのは、未だにピストルか爆弾を使うだけの強盗もどきとでも考えてるんじゃないか……この陸尉の部下の人たちが少し心配になった。都心部の人事は脳みそ入ってんのかと罵っていた自分の上司の言葉が頭に浮かぶ そこで、上官に恵まれない部下の方々の為に一役買うことにした……仮設の更衣室の前で一度足を止めて、怪訝そうな陸尉の目を見て 「――ところで陸尉殿、先ほどテロリストの面白い会話を記録しましてね。なにやら、根回しがどうとか話が違うとか……貴方のお名前は確か佐古島さんでしたか、何故かその会話の最中に何度かその言葉が出てきまして……何か覚えはありますか?」 言われ、顔が真っ蒼になりしどろもどろする自衛官、佐古島陸尉に「言い訳は僕にではなく、あの人たちにお願いします」と言い放って、比野はさっさと更衣室に入ってしまった 折り畳みができるようになっている簡易ロッカーを開き、制服とつなぎの様な黒いパイロットスーツを脱ぐその外で、機体から降りる前に記録レコーダーを転送しておいた”そっち関連”担当の自衛官と陸尉が一悶着起こしているようだったが、比野は意に介さず私服に着替え始めた この後あの陸尉の立場がどうなろうと、ここから千五百キロほど離れた場所が本来の仕事場である彼にとっては、この臨時仕事で乗り遅れた飛行機のキャンセル料金の憂鬱に比べればて、些細なことだった
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