第1章 ギルド

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 ≪Ⅰ≫  岩肌が剥き出しとなっている、数多の怪物が蠢く危険な洞窟の中。  内部はごつごつとした岩山がいくつも伸び、そこかしこから生えた水晶の六角柱がぼんやりとした青白い光を放っている。  空気は冷たく湿り、薄い靄(もや)がゆっくりと床の上をたなびく。  そんなとあるフィールドダンジョンの最深部に複数の足音が響き渡る。 「――さて、こいつを倒せば依頼完了か」  男の不思議と良く通る声が、大きく開けた洞窟内の空間に反響した。 ……ズズッ……ッ、ズズズッ……!!  まるで男の声に反応したかのように、暗闇が広がる洞窟の奥から四足歩行の蜥蜴のようなシルエットが尻尾を引き摺り近づいて来る。  数秒後――周囲の結晶が発する薄ぼんやりとした明かりに照らされ、その姿が朧気ながら見えてきた。  シルエットは蜥蜴とほぼ同じだろうか。  だが、どんなに大きな蜥蜴でも、尻尾を含めて全長7m以上もの巨大な体躯にはならないであろう。  そして極めつけが、背中にある一対の翼。  体の大きさから比較すればその翼は不釣り合いな代物で、明らかに一目で退化したものと分かってしまう。  体全体を視覚に捉えると翼が飾りに思えてしまい、余りにもアンバランスで滑稽(こっけい)だ。  だが、僅かに空いた口から覗く鋭い牙、その間から零れる唾液とこちらを敵意――いや、明確な<殺意>を浮かべて見据える鋭い眼光。  それは、直ぐにでもこの場から逃げ出してしまいたくなる程に暴力的であった。
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