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「依頼主さん。確認なんだけど、今回は<リザードドラゴン>の討伐で間違いないですよね?」
「あっ……ああ!!――そ、そうだっ!!」
青年のどこか場違いに感じてしまうのんびりとした問い掛けに、依頼主の男は慌てたように首を上下に振って答えた。
その様子に、青年の口角の端が微かにつり上がる。
「――――了解」
青年は依頼主の仕草を見て愉しげに答え、顔を正面に戻して体の重心を落とした。
そしてその青年の腰には、どこか禍々しい気配を漂わせる漆黒の刀。
刀の鮮烈なまでの緋色の柄に、ゆっくりと手を掛ける。
その時にはリザードドラゴンの狂暴なる牙は――既に、青年の目前まで迫っていた。
そして次の瞬間、男の全身が一瞬だけブレて霞み、刀に添えていた手が消失する。
鞘走りの音と殆ど同じ速さで抜き放たれた太刀。
それは神速果断に大気を斬り裂き、鮮烈なる円弧の軌道を描く。
――――――閃ッッッ!!
一瞬、洞窟内の音が消えたような錯覚。
――――チンッ。
そして、刀を鞘に戻す澄んだ音色が静けさを取り戻した洞窟内に響き渡った。
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