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『それでは我が主よ、さっさとサインでも貰ったらどうだ?』
『まぁ、そうだよな……』
男は何処かめんどくさそうに黒ずんだ灰色の頭を掻きながら、どこからともなく書類を取り出し依頼主へと声を掛けた。
「あーー、それじゃあ――依頼完了という事でサイン頂けますか?」
いささか古風な、現代では滅多にお目にかかれない羊皮紙の書類。
「あ……ああ。そう、だな」
青年の言葉に幾分か落ち着きを取り戻した依頼主の男は、渡された契約書に依頼完了の旨を示すサインを書き込む。
すると男の手に在った羊皮紙は紙全体を淡く発光させると、光の粒子となり大気に融けて消えてしまった。
洞窟内の濡れた天井を仰ぎ光が消え去るのを見送ると、男は微かな疲労を滲ませた息を吐き出す。
「フゥ……ありがとう、助かったよ」
青年はニッっと十代らしい笑みを浮かべ口を開く。
「いえいえ、仕事ですから。それと、今後とも御贔屓(ひいき)にお願いしますね」
男は茶目っ気を込めてそう言葉にした。
そして青年は挨拶もそこそこに、男達に背を向け歩き出す。
モンスター討伐後、洞窟の奥には青く発光する魔方陣――<転移魔方陣>が出現していた。
青年はその地に描かれた陣の上に颯爽(さっそう)と飛び乗る。
全身が足元から湧き出流(いずる)青い粒子に包まれる最中(さなか)、依頼主の男とその背後に控える男女三人を振り返る。
まだ驚きの抜けきらぬその表情に青年は苦笑いを残し、全身を粒子が包み込むと同時にその場から消え去った。
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