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「確かに篠原幸介は俺なんだが、俺に何かご用事?」
均衡を破ったのは幸介だった。互いに懐疑の目を向けていては、恐らく何時間立っても平行線だと考えた為である。確かに腑に落ちない事はあるが、別に完璧主義というわけでもないので目を瞑ればいいか、と考え、眼前の少女の要件を促した。
少女は顎に手を当てて僅かに逡巡した後、襟首を掴んでいる手を軽く引っ張りながら口を開いた。
「話す前に確認したいんだけれど、これ離したら逃げる?」
心配性だった。幸介は「そうだなぁ」と呟き、腕時計に目を落とした。HRまでの時間はおは6分といったところだった。
「HRまで時間ないから、逃げるかもな」
「えっ……」
女生徒は頓狂な声をあげると共に、やはり学校の掛け時計に目を向けた。
「ちょっ! 何あと数分って、全然ないじゃない! ……まぁいいわ、職員室どこ?」
そして、慌てふためいた様子で幸介の方に向き直り、恐るべき早口でまくし立てるように尋ねる。幸介はやれやれといった面持ちで職員室のおおよその位置を指差した。
「あの時計がある一号棟の二階」
女生徒は「ありがと」と淡白に言葉を残すと、すぐに視界から消えてしまった。
「なんだあいつ……」
幸介は女生徒の後を追うように小走りでHRへと急ぐ間も、最悪のシナリオを想定しているのだった。
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