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「ドイツから来ました、リーゼロッテ・アインハルトと言います。向こうではリーゼって呼ばれてたので、こちらでも是非そう呼んでください。私は日本が大好きで、もっと日本の事を知りたくて留学して来ました。文化や国の違いを超えて楽しく交流できたらと思います。宜しくお願いします」
湧き上がる拍手の中で、正芳は「日本語うまくね?」としきりに幸介に囁きかける。幸介は「そうだな」と適当に言葉を流しつつ、視線は今朝の女生徒、リーゼロッテへと向けられているのだった。
「悪い予感しかしない」
休み時間になり、男女が興味津々に留学生、リーゼロッテの机の周りを取り囲む様子を幸介は遠目から見ていた。どんな生徒にも笑顔で答える彼女を見ながらも幸介は今朝の出来事を考えていた。
「あの、篠原くん?」
不意にかけられた声で現実へと引き戻された幸介は、慌てて振り返った。そこには学級委員長の宮古邑香が立っていた。幸介が「何か用か?」と話しかけると、邑香は「お願いがあるの」と切り出した。
「今日の放課後に委員会議が入っちゃって、出来たら幸介君にアインハルトさんの校内案内をお願い出来ないかなって」
「あぁ、別にい……いや待て、なんで俺なんだ?」
申し訳なさそうに紡がれる邑香の言葉に二つ返事で快諾しそうになった幸介だが、すんでのところで押し留まる。
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