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「私って窓際の席だから、今日の朝二人で話してたとこ見ちゃったのよ」
邑香は「それで丁度いいかなーって思ったの」と続けた。その口元は不自然に吊り上がり、まるで興味津々というふうな面持ちである。
思春期女子の「色恋沙汰への鋭い嗅覚を存分に働かせています!」オーラを纏いつつ、期待感に満ち満ちた視線を投げかける彼女に対して、幸介は「あのな」と切り出した。
「あれ初対面だぜ?」
もとより恥じらいや動揺など感じようもないシチュエーションを滔々と語る幸介の表情はいつも通りだった。ところが邑香は言葉を反芻し小首を傾げたが、ものの数秒で「またまたー」と先程の表情に戻ってしまう。
「あ、秘密にして欲しいならクラスのみんなには言わないから大丈夫よ」
邑香は勝手に一人で曲解、納得すると、おもむろに耳打ちするように幸介に囁きかける。幸介はそんな彼女の様子を見て本日何度目かの溜め息を零した。
「分かったよ。どうせ言っても聴きそうにねーし」
「ホント!? ありがとね」
彼女の瞳の輝きを前に、おおよそ何を言っても無駄なのは分かっていたし、今朝の話の続きは、出来るならば今日中に聴いてしまいたかった。
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