プロローグ‐Re:Birth‐

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 人生に「生き甲斐」を求めることは、実は達観した物の見方で、普通なら日々という物は充実感を感じる間もなく過ぎてしまう。毎日が充実しているか否かは、実は朝の占いの時点で決まってしまうのではないかと思うほどに軽い。  例えば今朝もいつものように、スーツに身を包んだ女性のアナウンサーが『今日の気温は、ぽかぽか春らしい気温になるでしょう!』という具合に天気を予報している。画面越しにデジャヴのような笑顔を自分に向けながら。  篠原幸介は簡素なバタートーストにかじり付きながら、ふとそんな事を考えていた。進学等の驚異に対峙する事はまだ暫く先にあり、当面の懸念材料は、先日の新作ゲームの発売に際し、財布から薄い方のお金が旅立ち、今月をどう凌ぐかということだった。  ともあれ、一日というものは本来、無意識下に過ぎ去って然るべきものだ。この時期、春とはいえまだ肌寒さの残る朝は、温もりを湛える布団の誘惑に激しい攻防の末に辛勝をおさめ、命からがら誘惑の坩堝から這い出た身体で大食漢の癖に非常にグルメとかいうなんとも面倒くさい妹を満足させるために今日も炊事に勤しむ。  日々が満足とか、一日が充実しているとか、毎日がエブリデイとか、そういう事を逐一考えている回路は幸介の脳内には存在しないのだ。 「あら、兄さんが七時のニュースを見るなんて珍しい」  そんな彼の胸中を何も知らない腹ペコ女帝、もとい篠原伊織は眠い目を擦りながら、いつも定刻になると雄叫びをあげる。主に腹で。
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