あの日も、空は青かったんだ。

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 青い……本当に青い紺碧の空を見上げて、彼は軽いため息をついた。  そこは彼の家の二階にある自室のベランダである。  今日は日曜で、彼以外の家族(と言っても父と母の二人しかいないのだが)は出かけている。が、この家には彼ら以外にもう一人住人がいた。 「……アヤ……下りてこい」  彼がそう呟くように言うと、屋根から一人の少女がこちらを覗き込んだ。 「えー。なんでー?気持ちいいのに」  そう言うと、アヤと呼ばれた少女は少しふくれた顔をしながら、ふわりと隣に降り立った。その動きはかなり人間離れした動きだったが、彼は驚きはしない。  寄りかかっていたベランダの柵から身を離して彼女に向き直ると、少し苦い顔でぼりぼりと頭を掻きながら言った。 「ただでさえ俺の家は近所から注目浴びてんのに……これ以上目立ってどーすんだよ」  そう。彼ら中村一家は一年ほど前から、彼自身の学校生活を含め、周囲からの注目を一身に浴びまくっているのだ。  それというのも、全ては目の前にいる彼女、アヤが現われてからだった。  おかげで振り返ってみれば彼の高校生活は、いろんな意味で決して忘れることの出来ない、貴重な三年間になろうとしているのだが――。
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