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「……ちょっと、前失礼するね」
そう言うと、俺が返事をする前に、俺が設置しておいた椅子に座った。
最初から座らせるつもりだったので異論も反発もないが、てっきり勝手に座ると思っていたので少し意外だ。
この女、意外とやるかもしれないな。
「ああ、はい」
戸惑った俺は曖昧な肯定を返す。
「……それで、この指輪が欲しいんだよね? 私の夢への近道と交換で」
「はい、そうなりますね」
今度は絶対の肯定。
すると彼女――南芦華はにこりと笑った。
「なんのためにこれが欲しいのか、私に教えてくれたら考えてあげてもいいよ」
軽く弾んだ声。この前助けた時も合わせて考えると、明るく楽観的な性格なのだろう。
しかし油断はできない。
この指輪を持っている以上、本人がただ者でなくともその贈り主がそうである場合が多い。
まあ本人がただの一般人なのは助けた時にわかっていたので、ここは俺達の抗争に巻き込む訳にもいかないだろう。
「それ、うちの家宝だったんです。二百年前、先祖が賭け事に負けて取られちゃって……」
もちろん、嘘っぱちだ。二百年前なんかにこんな不思議アイテムは存在しない。
「そうなんだ……じゃあ、渡すよ」
はい、と言って手渡してきた。なんのへんてつもない、青色の宝石が埋め込まれた指輪だ。
しかし、俺がよく見もせずにポケットにしまったのを不思議に思っているような顔だ。
「……それ、嵌めないの?」
……まさか、俺は罠にかかったのか?
「嵌めた方が可愛いよ? ほら、一回お姉さんに貸して?」
「はあ」
曖昧な返事で、渋々それを実行した。ここで渡さないのは不自然だ。
そして彼女、南芦華は俺の人差し指に指輪を嵌めた。
その直後、心臓にズキリと鋭い痛みが走る。
そして俯いた瞬間、俺は倒れたのだった。
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