プロローグ

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 青々とした緑の草木が静かに揺れている。透き通った風が静かに流れていく。遠くに見える透き通るような青い山並みはいつもと何も変わらない。  緑の中に咲く白や黄色の花々は甘い香りを周りに漂わせる。その匂いに誘われて黄色や白、オレンジ、緑の羽を付けた蝶々がゆっくりと花びらへ舞い降りていく。  時間は感じられない。背中の羽根を忙しく動かす事など無い。  この世界に存在することになってこれまで、毎日優雅に暮らしていた。何にも縛られず、何にも苦痛を強いられず。ただ、この世界に存在していることが大切であった。  喉が渇いた。横になって昼寝をしていた体を静かに起こし、数歩先に流れる小川に歩いていく。  木々の小枝に休んでいた小鳥達が追い駆けて来る。  小川を流れる透き通った水を両の手で掬い、口に持っていき啜る。程よい冷たさの水が喉を通って身体の中へ入っていく。 『甘い・・・』  そう一瞬感じられる幸せ。  遠くの方から天使のベルが鳴らされた。その音は透き通った女神の声にも聞こえる、静かで美しい音である。  下級天使達への、第一の試練の日が始まるのだ。それは厳しい物では無い。自分達が決め、その通りにやるだけ。その目的は、『下界の人間を幸せにすること』である。  どんなやり方でも良い。人間を幸せにし、その幸せの度合いが高まれば、天使の位が一つ上がる。  上級天使に成る為の道。  太く真っ白な柱と壁、その上に覆う天井で造られた雄大な神殿は、神様と唯一面会の出来る場所。  ここで、名も無き天使達は『運命のルーレット』と言う試練が与えられる。 「名も無き者達、参りました」  誰かがそう発した。神殿の大広間には数人の天使達が静かに片膝をついて頭を垂れている。 「うむ。そなたの思う道にそって、人間を幸せにして参れ。人間の幸せ度合いで、そなたに名を与えよう」  大きく腕を広げた神と、目の前にいる天使との間に広がる様々な人生を送る人間達の姿が何も無い空間に映し出される。  天使達の未来を決める『運命のルーレット』が廻りだした。  映し出された数十人の人間達の人生を、その人間と共に歩んでいくこと。渦巻きに吸い込まれるように天使達は旅立っていった。
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