11人が本棚に入れています
本棚に追加
1
夜空に、蒼い半円がぽっかりと浮かんでいる。分厚い雲がその周りをのさばり、地表を睥睨しながら泳いでいく。
月が注ぐ淡く蒼い輝きは涼やかで、蒸したような暑さも少しばかり和らぐようだった。
季節は、梅雨を迎えていた。蒸し暑さはまだ本格的ではないものの、生ぬるい外気はサウナの中にいるような錯覚を覚えさせる。
塀の上では、野良猫がすっかりへばっていた。
天気予報では、この時間の降水確率は八十%。いつ雨が降りだしたっておかしくない。
だから、夜も更けてきたこの時間、特に用もなく外出する物好きなどいない。ゆえに、誰も気づかない。
月光の下で、三つの影が踊っていることに。
「想ちん! そっちに行ったよ!!」
戦友の呼び声に反応して、想助は気を引き締める。注意を全方位に向ける。視覚だけには頼らない。
最初のコメントを投稿しよう!