‡第一章 想助の日常と非日常‡

3/58
前へ
/162ページ
次へ
   聴覚と、そして第六感で感じ取るのだ。  憑依一体を行使している今、異形の霊を捉えるなど容易いこと――!   「そこかっ!」    裂帛の気合いで、想助の身が空を跳んだ。  住宅地を眼下に、想助は影と相対する。  まるで墨で塗たくったような、真っ黒な胴体。輪郭は歪で、角ばったり、かと思えばへこんだ部位も見受けられた。    人型でありながら、しかしその顔は牛だ。真っ黒で、牛の頭。だけど口角から覗く牙は牛とは程遠い獰猛なそれだ。  夜闇に異形の者の金眼が禍々しく光る。    そこにあるだけで嫌悪と不快を撒き散らす、負を結集させたかのような異物。  想助はそれと、真っ向から向き合った。   「逃がしはしないぞ」   【こんなザコ、さっさとケリ着けちまおうぜ】    頭蓋に直接響く不満の声に頷いて、拳に力を込めた。ありったけ。魂を拳に注ぐつもりでグッと握る。  異形の者が動く。口腔から生まれる声に理性の欠片もない。  
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加