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そんな彩夏の言葉を遮り、俺の後方から何やら声が聞こえてきた。
「あっ、とうちゃんだ。おーい!」
俺の正面にいた彩夏はその声の主が誰なのかすぐに分かったらしく、その人物に向かってブンブンと腕を振っている。
そして俺も登場の仕方に既視感を感じながら後ろを振り返った。
「もう!弁当は忘れちゃ駄目って何時も言ってるっすよ?食いしん坊のくせに何で忘れるっすか!」
その人物はそんな悪態を吐きながら彩夏の前に立ち、若干呆れ気味な感じで弁当箱を彩夏に渡している。
…………何時も言ってるんだ?
「べ、別に食いしん坊じゃないもんっ!?イチロー君に誤解されるような事言わないでよう!」
彩夏にしては珍しく、顔を赤らめながらあたふたと慌てている。
弁解してるとこ悪いが、誤解も何も割りと前から食いしん坊だと思ってたよ。
「へー?じゃあコレは要らないっすね?」
「ごめんなさい食いしん坊ですっ!?」
彩夏の反論に弁当箱を持ったまま立ち去ろうとする女の子。それに対し彩夏は必死に女の子の制服を掴み、弁当箱を奪い取る。
認めるの早いな。誤解されたくないならもう少し頑張ろうぜ?
「……って今、イチロー君って言ったっすか?」
弁当箱を奪われたことで一通りの絡みは終わったのか、女の子がさっきの彩夏の言葉を拾い俺に視線を向けてくる。
女の子の容姿は、彩夏と同じ茶髪で長さもほぼ一緒。髪型で違うのは一部の毛が上に跳ねている所。所謂アホ毛だ。
他の特徴は少しツリ目で青縁の眼鏡を掛けていて、身長が150㎝あるかないかという低身長。
「名前はイチローじゃなくて山本宋一郎な。まぁ、呼びやすいように呼んでくれたらいいよ」
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