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「学校だ」
「夏までは、まさかこうしてやめることになるとは思ってもみなかったよ」
「ちょっと中入ろっか」
軽々と塀を飛び越え、不法侵入する二人。
この跳躍力にももう慣れた。
「屋上、だったよな」
「グラノールだね」
ふっと校舎の最上階を見上げ、駆け目指す。
階段など要らない。
彼らは虹炎術師だ。
校舎の外に張り出したひさしを使い、森の猿よろしくひょいひょいと屋上に上がる。
「おわたっ……」
「大丈夫?」
が、猿も木から落ちるという言葉もあるように、翔太は屋上間際で足を踏み外した。
ひさしの縁を掴んで落ちずに耐える。
「大丈夫」
「気をつけてね」
「……うん、問題ない」
体勢を立て直して、翔太はレイに続いて屋上へと駆け上がった。
この事件自体は大した問題にも見えない、ただのミスのようだった、がしかし、
(おかしい……)
翔太は違和感を感じていた。
これがただのミスでなかったとすれば。
「……ま、いいや」
「ここで翔太が、初めて助けてくれたんだよね」
「……どっちかと言うと俺が助けられてたけどな」
「ううん、あれがなかったら私は多分死んでた。助けられたんだよ絶対に」
目を細めて、嬉しそうに語る。
あの時から、色々なものが変わった。
たくさんのことを知ったし、たくさんの戦いも経験した。
それでも、始まりの場所はこの街で、それはこの先も変わらない。
「ケーニヒさんに、言われたことがある。細かいことは忘れたし、ちょっと変わってるかもしれないけど……」
「?」
「俺がこうして炎を使うことになったのも、たくさんの戦いを経験するのも……多分、必然的なことだって。それは、俺の虹色の炎が起こした、当たり前の結果なんだって」
「……うん」
「でも、偶然のこともあって。それが、レイと出会ったことだって。そりゃそうだよな、どこの街でも俺は戦ってただろうけど、この街でなきゃレイとは出会えなかった」
「……」
「その偶然を、大切にしろって言われた。俺は今、それはすごく正しいと思う。俺は」
「、」
「レイと出会えて良かった」
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