種火

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「それじゃまあ……ちょっと痛い目を、見てもらおうかな!」 恐ろしい気迫とともに、ケーニヒは一歩踏み出した。 だん、と擬音が聞こえてきそうな、重い一歩。 それでもまだ平然と立つ偽クロスに向けて、ケーニヒは置かれていたソファを蹴り飛ばした。 重たい家具が、偽クロスへと宙を飛ぶ。 「うわ、ちょ、」 数歩の動きで難無く偽クロスはソファをかわす。 だがその逃げた先は、壁際だった。 「まったく、危な……!?」 壁を貫いて、長い剣が偽クロスの腹を貫いていた。 続けて、横から銃弾や炎を纏った矢が降り注ぐ。 「ぐあっ……」 「攻撃やめ!」 ケーニヒの声で、ぴたりと弾と矢が止む。 と同時、ケーニヒは偽クロスへと踏みこんで、いつの間にか手にしていた太い鉄杭を偽クロスの両腕に叩きこんだ。 偽クロスは磔のように、壁に固定される。 「やっちまった……下がりすぎたか」 「さあ、クロス君の居場所は?」 「……まあ、頃合いか」 偽クロスがため息を吐く。 「ちなみにさ。俺の……じゃなかった、コイツ、クロスの部屋にも誰か差し向けてんの?」 「訊ける立場か? それを知ってどうなる」 「いや、親しい奴が行ってるなら、最後の別れを告げとけよって、教えといてやろうと思ってさあ」 「……爆弾でもしかけたのか!?」 ケーニヒの顔色が変わった。 会長用の高価な机上の、固定電話に飛びつき、かける。 「違う違う。爆弾程度でお前ら殺せると思ってねえし」 「……何?」 「それより、楽しい告知の時間だぜ? クロスって奴の居場所が知りたいんだったな? 教えてやる。コイツは、ここにいる」 磔状態の“偽クロス”が、杭の刺さった傷口が広がるのも構わず、親指で強引に指差したのは。 “偽クロス”の体、そのものだった。
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