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あらゆる体験が、新しく感じられた。
(あれ……電車ってこんな長く待つもんだったっけ……?)
(あれ……電車ってこんな速さだったっけ……っていうかどんな速さだったっけ……)
自分が、誰と――自分にとってどういう立場の人物と、ともにいるのかを直視することが恥ずかし過ぎて倒れそうで、気を紛らわすとこうなる。
会話は、ない。
気まずいと感じられるほどの心の余裕は、双方ない。
(自動で扉開くのってよく考えるとすごいよな……)
(車掌さんってどうしてみんな独特の言い方なんだろう……マイクのせい……?)
これから行く映画のことに思考がたどり着くこともない。
二人は認識していないが、電車内は座れないながらも他人としっかり距離をとれるほどにはすいていた。
そのことが、二人をよそよそしく引き離す。
が、これは悪いことではなかった。
ガタンガタンと単調な電車の揺れやするすると流れていく外の景色を、「独り」で感じ、見るうちに、二人は落ち着きを取り戻す。
((何か話さないと……!))
せっかくの初デートだ。
何も話せなくてつまらなかった、では目も当てられない。
などと、難しく考えるから余計に緊張してしまう。
たとえ立場がただのパートナーから、恋人を追加したものに変わったところで二人の関係そのものが変わるわけではないというのに。
ちら、と同時に互いの様子をうかがって目が合い、二人は慌ててそっぽを向いた。
両者、恋人というものになじみがなかったがためにこの事態に陥っている。
彼女が欲しいとは言うものの、実際に誰という目的があるわけではない、男子高生にありがちなふわふわとした恋人観。
もう一方の、難しく考え過ぎてこういう日常的な一般化を忘れていた恋愛観。
ガタンガタンと、電車は相変わらずリズミカルに揺れている。
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