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リビング兼相談室と、谷川に命名された部屋でその女性は、ソファに座り、テレビを眺めている。
画面の中では、万景峰号という単語に四苦八苦する男性アナが居た。
台所からテレビを見ていた菊地は笑いをこらえて、女性に言葉をかける。
「しっかし、こんな朝早くから珍しいですね。どのくらい待ってたんですか?」
すると、女性は少し考え…、
「一時間くらい…、だったでしょうか…。」
と、言った。
菊地は温度計に目をやった。
6の所で赤い線のノビは止まっていた。部屋の中でこの温度である。外は…。
菊地は小声で、マジかよ…。と呟くと、女性にコーヒーを手渡した。
「あんな中、一時間はキツイっすよ。インターホン鳴らしてくれたらよかったのに。」
「いえ…。この事務所が何処に在るのかわかんなくて、朝早くに家を出て探そうと思ってたら、意外に早く見つかって。失礼かなと…。」
「…。さいですか。」
そして、菊地は再び台所に戻り、少し後に、今度は朝食を、女性の前のテーブルに置いた。
「あ、あの…。」
「朝ごはん、食べてないんじゃないですか?。よかったらどうぞ。」
「…。いただきます。」
そう言って軽くお辞儀をすると、女性はトーストを口に運んだ。そして、
(苦い…。)
そう思った。
テレビの中では、今度は、東京特許許可局という単語に四苦八苦する男性アナが映っていた。
今日の彼は大変だ。
そう思い、菊地は自分もトーストを口に運んだ。
(…。焦げたな。)
今日のトーストは失敗だ…。
時刻はもうすぐ7時だった。
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