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一行はいま幕家生活なので、一度に全員が出かけることができない。
「わたくしは琴でも練習しておりますゆえ」
にこにこして留守居を引き受けるのは『じいや』サジである。
草場に向かう途中に、さきほどの建築現場が見えてきた。
「表情がすぐれぬな、ザクスよ」
タオが話しかけた。
言われた通り、あれからザクスの胸のざわめきは強くなる一方だった。
いや、ざわめき、というか…
「そのう…魔術を信じていない、というわけではないのだが…大丈夫なのかな」
「うむ。それについて言わねばなるまいと思うていた。…ふふふ、そなたはやはり『建てるひと』なのだな。『つくるひと』というか」
「…あん?」
「…俺は生まれてこのかた、ずっと『たたかうひと』であった。選択肢がほかになかったとはいえ、他人の闘志や体力を叩き壊し、滅ぼしてきた。その真価を知ったのはこうして皆とともに旅をするようになってからだ」
「…この春の国にはそこまであぶない競技ははやってねえが、俺にもあんたの強さはわかってる…と思うよ、タオちゃん」
「ところが、いかなる天の思し召しか、この俺が他人の生をたすける、ときには生み出すたすけもする機会を多く持つことになった」
「生み出す…ああお産に立ち会ったのかい」
「すさまじかった。そして、すばらしかった」
「うん」
「そのために俺がいままで培ってきたいろいろな知恵や力を生かせるらしいことも知った。壊し滅ぼすための知恵や力は、壊さない、滅ぼさないためにも使えるのだと」
「うん」
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