つなげる とある大工さんのお話・3

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ザクスは落ちていた石材のひとつを持ち上げると、腰の高さからそのまま、崩れ落ちた壁の残骸に落下させた。 ぼくっ、というような音とともに、壁であったものはばらばらにこわれた。 「この面が、漆喰で隣りの石とくっついていたんだがな」 見るとそこには漆喰のあとがほとんどなく、その隣りに接着していたはずの石材にも、あまり漆喰の痕跡が残っていなかった。 「…いまザクスどのは強くぶつけたりはなさらなかったと」 「…そのわりにはあっさりこわれましたねー」 「そのとおり。漆喰ってえのは湿った状態から乾いても、仮にくっついたにすぎねえ。本当に石材と石材を強く結びつけるには、十分な量の漆喰と十分な時間が必要だ。こいつらは何年もかけて固まるんだ」 「…そうした手間がかけられていない、と…」 「ああ、安普請、手抜きもいいとこよ。漆喰をけちっているぶん、材料費も安く上がる。見た目の工期も短くて済む…しかし梁と梁がぴったり支えあう、なんて精密さが出るはずもねえ」 「そこだ」 タオが大きな声をあげた。 「ようやく答えが、見つかった。ザクスよ、こたびは『壊す』のではないのだ。『つなぐ』仕事なのだ」 「…?」 「そなた、せっかくの仕事を壊すのが辛くて、あんな顔をしておったのだろう?」 「…う、うん、そうだ。」 「壊して終わり、ではないのだ。これは『つなぐ』ためにいったんやりなおすのだ。…無為に帰するのではないのだ」 「…!」
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