第二話  郵便受けの中

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「誰だ!」 俺は狂ったように辺りを見回した。 しかし人影はおろか、何一つ見あたらなかった。 「説明してやろう」 再び声がした。 「お前という存在は、この世から消えて無くなってしまうのさ。完全なる無、全くの白紙という訳だ」 俺は気づいた。 この手紙がしゃべっているのだ。 こいつが本体だったのだ。 その時、その小さな紙切れは突然大きく広がり、生きているかの様に素早く動き、逃げる間も与えず俺を完全に包み込んだ。 そしてそれは俺を包み込んだまま、ゆっくりと元の小さな紙切れに戻った。 庭におちた一枚の紙切れは、やがてかき消すように、すうっと消えた。 この世に何一つ残す事のない、完全なる無。        ・ 「七日目」 恵子が会社から帰ってくると、郵便受けの中に手紙が入っていた。 封筒には恵子の名前だけが黒々と書かれていて、その中には「5」と書かれた小さな紙が入っていた。         終
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