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今年の夏も彼女と海に来た。
もう夕暮れが迫る赤に染まった海岸縁に車を停め、二人で話し込んでいた。
少し開けた窓から、少し涼しくなった風が、潮の香りと共に心地よく吹き込んで来る。
穏やかな時が、ゆったりと流れていた。
「私、喉、かわいたわ。ジュースでも買ってくるね」
のぞみが言った。
少し離れた所に、ぽつんとジュースの自動販売機が有る。
「ああ」
ひろしがのぞみに向かって返事をし、微笑んだ。
のぞみはハンドバックを持つと、機敏な動きで車を降りて行った。
若さに満ち溢れている。
ひろしはその後ろ姿を見ていた。
「そういえば」
ひろしは一人つぶやいた。
「去年の夏も、同じような事が有ったな」
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