第一話  彼女と海へ

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去年の夏、ひろしは今日子と一緒に海に来た。 同じ車に乗り、同じ所に車を停めて、二人でいた。 そして今日子が一方的に一人でしゃべっていた。 ひろしはずっと無言だった。 今日子ではなく、じっと海を見ている。 今日子はおどおどした態度でひろしの顔を覗き込んだ。 「……それじゃあ、ジュースでも買ってくる。……ひろし……飲む?」 ひろしからの返事は何も無い。 今日子は力無く車を降り、とぼとぼと老人の様に歩いて行く。 ひろしの視線は全く動くことなく、そのまま海を見ていた。        ・ 暫くして車のドアが開き、今日子が入って来た。 「はい! ひろしぃ。オレンジとコーヒーと、どっちがいい?」 不自然に明るい声だった。 耳障りだ。 ひろしはやはり答えない。 ただ海を見ているだけだった。 今日子の耳にざわざわとした波の音だけが、やけに大きく響いてくる。
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