第一話  彼女と海へ

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不意にドアが開いて女が入ってきた。 「はい! ひろしぃ。オレンジとコーヒーと、どっちがいい」 ひろしは弾かれた様に振り返った。 そこにはのぞみではなく、今日子が座っていた。 瞳の無い眼でひろしを見て、真っ白い顔で笑っている。 ひろしの全身に怖毛が走る。 咄嗟にドアに手をかけたが、ドアは開かなかった。 開けていた窓が、まるで生きているかのように閉まっていく。 ひろしはドアに激しく身体をぶつけながら絶叫していた。 勝手にエンジンがかかり、ハンドルが回った。 車は静かに動きはじめた。        ・ のぞみは両手に缶ジュースを持ったまま、呆然と立ちつくしていた。 車が走り出している。 おまけに助手席に知らない女が座っていた。 不意に女がのぞみの方へ振り返った。 ぞっとするような凍りついた笑みを浮かべて、のぞみに手を振った。 車はゆっくりと、そして真っ直ぐ海へと向かって行った。         終
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