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後日、俺はみなぎるアイデアを感じていた。マジックが次々と思い浮かんで仕方なかった。
家を飛び出し、公園へ向かった。20年前、マジックに心躍らしたように、俺の足は走っていた。
「さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい!」
勝手に手が動いた。俺の手が繰り出すマジックは、あまりに綺麗で芸術的だった。徐々に客が増え始め、ひとつマジックが終わる度に歓声が響いた。
夢みたいだ。俺がするマジックで、みんなが笑っている。驚いている。今確かに、俺は思った。幸せだって、夢が叶ったって。
しばらくすると、人だかりの合間から、あの少年の姿が見えた。
今日の公演が終わったら、少年に礼を言わなくてはならない。彼は、いつも変わらず俺のマジックを見てくれたのだから。
そして、夕方になった。時間が経つと、あんなにいた客も、今では少年ひとりだけとなった。
俺は少年に近づき、言った。
「いつもありがとね」
待てよ…同じだ。あの日と、おじさんの「いつもありがとね」その言葉の後、確か俺は…確か…
「僕の夢はね」
少年がそう言うと、俺は先駆けて呟いた。
「おじさんみたいなマジシャンになることだよ…それが、僕の夢だよ…」
ハッとなり、俺は少年を見つめた。額には汗が浮かんでいた。少年は不思議そうに俺を見つめた。
同じだ。あの日と、まったく同じだ。あの日、俺は振り返った。そこには、あのお婆さんがいて、お婆さんは笑っていた。
「そんな…」
あの日と、すべて同じだ。
次の瞬間、何も無い空間から、1羽の鳩が飛び去って行った。
完
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