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20年前のあの日、何も無い空間から、1羽の鳩が飛んだ。
あの日見た鳩
その日は真夏の、むしむしとした日だった。
まだ幼い陽一は、夏休みに、毎日ひとりで近所の公園にマジックを見に来ていた。30半ばのおじさんが、公園の木の下でするマジックを、ひとり汗を垂らしながら見入っていた。
しかし、そのマジシャンには人気もマジックの腕も無かった。ただ、純粋な子供を笑かすことしか出来ない。そんなマジックだった。
ある日、いつものように陽一が公園に行くと、あの木の周りに人だかりが出来ていた。
その日のおじさんの手際は実に見事で、ひとつ、タネを終える毎に巻き上がる歓声が、新鮮で仕方なかった。
次第に客も減り始め、ついには陽一ひとりとなった。
おじさんは笑顔で、陽一に言った。
「いつもありがとね」
陽一は、返事を返すように言った。
「僕の夢はね、おじさんみたいなマジシャンになることだよ、それが、僕の夢だよ」
その瞬間、おじさんは消えた。
パッと一瞬の内に姿を消したのだ。
代わりに1羽の鳩が、陽一の目の前を飛び去って行った。
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