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後日も、少年は俺のマジックを見に来てくれた。
いや、少年ただひとりが、見に来てくれた。いつも客は彼ひとりだ。
いつものようにマジックを披露し、少年はまたタネを聞いた。でも、今日はそれだけでは終わらなかった。
「おじさんは、夢がある?」
一瞬、不意をつかれたように体は固まった。
「あ、ああ‥あるよ、俺の夢は…大勢の前でマジックして、みんなに喜んでもらうことかな?」
「ふーん、僕の夢はね」
少年が言いかけた時、どこからか女性の声がした。
「帰るわよ~」
その女性は、少年の母親のようだった。彼女は俺に会釈し、少年は彼女の下へ駆けていった。
気づけば夕方だった。道具を鞄に入れ、それを持ち上げたその時、またもやどこからか女性の声がした。今度はお婆さんのような声だった。
「こんにちは」
お婆さんは木の上に座っていた。とんがり帽子を被り、服はぼろぼろで真っ黒だった。一言で表せというのなら、魔女だ。
「あなたは…?なんでそんな所に?」
「夢を叶えたいかい?お前の夢は分かってるよ」
お婆さんはひょいと木から降り立った。
「ちょっと待った!」
鞄を持ちながら後ずさると、近くのベンチに足があたった。
「夢を、叶えたいかい?」
「もちろんだよ…ところであなたは?」
お婆さんは「わかったよ」と一言だけ発すると、右手の人差し指で、俺の額をちょんとつついた。
驚いてまばたきをすると、彼女は消えていた。
「なんなんだ…」
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