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「あら?海衣、あんたどこ行くの?」
「愛季と遊びに行ってくる。」
「あら、そう。行ってらっしゃい。あんまり遅くならないようにね。」
「はいはい、行ってきます。」
家を出てすぐに携帯を開く。
はぁ…どこに行こっかな。
もちろん愛季と遊びにいくなんて嘘。そう言えば親が納得するから出かける時はだいたいそう言う。
親は子どもの事をよく知ってる風に何かと言うけど、実は全然知らないことにまったく気づかない。
いい子を演じてたら何も言わないし、まさかうちの子がこんなことするわけないって思ってることを実際はしてるなんて気づくはずもない。
世界はそうできている。
神様が隠してる。
とりあえず駅前をぶらつこうと思って適当に歩いてたら、知った顔が視界に映った。
巧君だ。
知らないふりして逃げちゃおう。
来た道を引き返そうと後ろに向いた瞬間、
「海衣ちゃん。」
…見つかってしまった。
めんどくさいなぁ。
でもこれを無視するわけにはいかない。
またくるっと向きを戻して笑顔を作った。
「あれ?巧君?こんなとこで何してんの?」
「あー…俺、人と待ち合わせしてて。海衣ちゃんは何してんの?」
「私は適当にぶらついてるだけ。」
「そっか。ならさ、一緒にどっか行かない?」
「…は?えっ、待ち合わせしてんでしょ?」
「それが急に行けなくなったってさっきメールが来てさ。俺、暇になっちゃって。別に1人でも大丈夫だけど、もしよかったらどう?」
基本的にすごく強引なのに、妙なところで遠慮する。
なんか、不思議な人。
この人は私のツボを熟知してるのだろうか。
めんどくさいのに、なんだか興味が湧く。一緒にいたいって思わせる人。
気づいたらもう私は頷いてしまっていた。
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