穴に嵌った成れの果て

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穴に嵌った成れの果て

頭2つ分飛び出しているせいで 僕はすっかり待ち合わせ場所として定着していた 毎朝老人が律儀に水をかけてくれる 何か頭から生えればいいが 生憎僕はいくら光合成をしても何も生えてくる気配はない ただ少しずつ髭や髪が伸びていくだけで 足はもう腐り始めている 週末になれば頻繁に利用され 僕の周りには吸い殻だけがよく溜まる 一体誰が掘った穴なのだろう そういえばあの日は珍しく青すぎる空に見とれて歩いていたっけ ああ全くいつもの様に俯き加減で歩いていればよかったものを それにしてもなんて中途半端な穴なんだ 全部埋まってしまえば諦めもつくというのに 今更ぼやいても仕方ないが 体の腐敗は着々と進行しようとしている 脱け出す術を考えなかったわけじゃない ただ少しばかり 何か頭から花でも咲くんじゃないかと思ってしまったんだ 少しばかり 思ってしまったんだ 日に照らされ 風にさらされ 雨に打たれ 嵌ってしまってはや幾年か ここもえらく寂れてしまって 僕の原型ももうすっかりない 空気に触れるその感触 見事に忘れてしまった 頭からは何の花も咲きはしなかったけれど 僕は何とか地球の肥料になる事に成功し やがて地面に一つの芽を生えさせた 花が咲くかは知らないが  
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