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おやすみ
言葉や、時間や、あなたに
おやすみなさいを被せて寝かしつけたい
もう起きなくてもいいんだと言ってあげたい
チェーンスモーカーの彼はいつも食事より煙草を優先させる
生ゴミよりも価値の低い吸い殻ばかりを生み出し
何も届かない煙ばかりを繋げ続ける
霞を食べて生きるのが仙人なら、彼は一体何なのだろう
いつもぼやけている空間の僅かな切れ間から彼を探すけれど
案の定すぐに居なくなってしまう
私に出来ることといえば、彼の飲み水をこっそりレモン水にすり替えることくらいで
彼と一緒に煙の中に消えていくことすら出来ないでいる
時々彼は声を無くす
私も同時に無くす仕組みだった
喉が体が体のもっと奥深くが悲鳴をあげるのだ
煙も何も私達には止めることなど出来ないのだから
こうして時々言葉を無くさなければならなかった
またこの先も歩いていくために
翌朝、搾りきったレモンのような喉からなんとかおはようを一滴絞り出す
言葉に、時間に、あなたに
おはようを
おはようを
おはようを、
冬の朝彼は少年の顔をして煙を吐き出している
火炎放射器みたいだねって私が言うと、少し嬉しそうにはにかんで
一時宙をたゆたい消えていくのだった
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