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けものと
この冬を越えるには
あなたよりも一枚の毛布が欲しいよ
私がそうこぼすと彼はふらりと部屋を出て行き
夜、獣になって戻ってきた
暗い部屋に鋭い眼が浮かぶ
聞こえるのは私とは異なる息遣いと響く爪の音
床が傷付くのを危惧した私は彼の手をとり(もう前足と言った方がいいのだろうか)爪を切り出す
パチンパチンと切る度に切なげに鳴くので少し居たたまれなくなった
僅かに開いたカーテンの隙間からじっと月を見ている
綺麗に切り揃えられた爪の先から
そこからもう一歩も出られないといった様子で
月など見なくても生きていける、誰に言うでもなく一人吐き捨ててみるけれど
本当に同じ月を見ているのか、時々とても心配になる
八年前に死んだ飼い犬のこと、隣の猫のこと、私から一番遠い場所にいるような沢山の生き物のこと、そしてあなたのことに思いを巡らせる
意思の疎通や何かを望むわけではない
ただたまらなくその胸の内が知りたいのだ
(例えるものも無いだろうに)
(こんなに広い地で)
(月を見上げて)
(一体何を、)
私達は冬の間一緒に過ごし続けた
どちらからともなくくっついたり離れたりを繰り返しながら
彼はどこへも行こうとはしなかった
いきかたを忘れてしまったのか、それとも諦めてしまったのだろうか
もはやここで生きていくしかなくなってしまった温かいけものがここには居た
最初は不快だった彼の体臭がだんだんと馴染み、鼻と仲良くなった頃冬が終わった
私も彼のようにけものになりたいとあれから毎日願ったけれど
彼が毛布を望まない限り私がけものになれる術はないのだととっくに気付いている
そして彼がもう、毛布を望んだりなどしないということにも
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