かえる

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かえる

* 「いまならわたし 世界中のあんドーナツを食べ尽くしてしまえそうな気がするの」 そう言ってペロリと上着を捲った彼女のお腹にはぽっかりと穴が空いていて 僕の故郷の商店街よりも寂れてがらんとしていた 「あそこでならわたし 同じように色づけると思うの」 数日後、彼女は華麗にIターンを決めた * 上京して彼女と出会って、僕らもみくちゃになりながらも二人分の幸福を分け合った 悲しさも寂しさもちゃんと二倍になった 色んなものに飲み込まれすぎて 僕はもう彼女になれたような気がしていたし、彼女もまた僕になっていくんだと思っていた 彼女が時々大量のあんドーナツを食べていた事、知らないふりをして 何度も温めなおしたミルクはとっくに底をついていたのに * 街を歩けば日に何度も人とぶつかるが こころ、はなかなかぶつからない ネクタイを締めていたはずなのに、今ではネクタイに締めあげられる始末 今ごろ化粧の薄くなった君の頬はやんわりと緩んでいるだろうか * 手掴みでご飯を貪りながらこそ泥みたいに夜を歩く 横断歩道の向かい側、くたくたのネオンにまみれた野良犬は三回点滅して消えてしまった 夜道をあまり照らしすぎてはいけないのだ * 公園の隅であんドーナツを頬張る 一つ二つ、三つ四つ まだ足りない 今なら少し彼女の気持ちがわかる気がする * 「何も無くなったら ここにおいで たくさんご飯食べて ゆっくり休んだら また探しに行けばいい おかえりはいいの わたし、あなたに いってらっしゃいって言いたい おかえりはいいの」 * 「ここでならわたし 咲くことはないけれど ちゃんと散ってゆけると思うの」 君が望んだ速度で 年をとっていけるといい  
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