11人が本棚に入れています
本棚に追加
穴に嵌った成れの果て
頭2つ分飛び出しているせいで
僕はすっかり待ち合わせ場所として定着していた
毎朝老人が律儀に水をかけてくれる
何か頭から生えればいいが
生憎僕はいくら光合成をしても何も生えてくる気配はない
ただ少しずつ髭や髪が伸びていくだけで
足はもう腐り始めている
週末になれば頻繁に利用され
僕の周りには吸い殻だけがよく溜まる
一体誰が掘った穴なのだろう
そういえばあの日は珍しく青すぎる空に見とれて歩いていたっけ
ああ全くいつもの様に俯き加減で歩いていればよかったものを
それにしてもなんて中途半端な穴なんだ
全部埋まってしまえば諦めもつくというのに
今更ぼやいても仕方ないが
体の腐敗は着々と進行しようとしている
脱け出す術を考えなかったわけじゃない
ただ少しばかり
何か頭から花でも咲くんじゃないかと思ってしまったんだ
少しばかり
思ってしまったんだ
日に照らされ
風にさらされ
雨に打たれ
嵌ってしまってはや幾年か
ここもえらく寂れてしまって
僕の原型ももうすっかりない
空気に触れるその感触
見事に忘れてしまった
頭からは何の花も咲きはしなかったけれど
僕は何とか地球の肥料になる事に成功し
やがて地面に一つの芽を生えさせた
花が咲くかは知らないが
最初のコメントを投稿しよう!