第十五章

2/27
前へ
/607ページ
次へ
時が経つのは早いもので、気が付けば俺は受験生になっていた。 最近の日課になりつつある放課後の図書室で赤く染まり始めた空へ目を向ける。 怒涛の1年間だった気がする。 ここ1年を振り返り、思わずため息が漏れた。 茜と翼が付き合い始め、俺にも恋人が出来た。 そして、別れ。 気付かれない。 浅はかにも俺はそう思っていたんだ。 気持ちの違い、それに気が付かないはずがないのに……。 彼女を傷付けた、そんな自己嫌悪から向かった屋上には葵がいた。 茜を想っていたことがばれてたとは……あの時は驚いた。 まぁ葵は確信があったわけではなく釜をかけていたみたいだったけど……。 俺はまんまと葵に乗せられて、茜への想いをバラしてしまった。 そこで俺は葵にも想い人が居ることを知った。 そして、それが辛い恋だということも……。 その時から始まった俺と葵の“恋人ごっこ”。 あの時は本当に驚いた。 あんなにも辛そうな葵を初めて見た。 あんなに辛そうな顔はもうさせたくない。 そんな思いで受け入れた恋人ごっこ。 始めてみると結構楽しく過ごせた。 茜のことを想って苦しくなることも、辛くなることも減った。 葵に救われていたんだど改めて感じた。 でも葵は……? 彼女はどう思っていたんだろう。 俺と過ごす日々を楽しんでくれていたのだとは思う。 それくらいは昔からの付き合いで分かる。 でも……少しは辛い恋を忘れさせることが出来ていたのだろうか。 俺ばかり救われていたのではないだろうか……。
/607ページ

最初のコメントを投稿しよう!

824人が本棚に入れています
本棚に追加