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それは男だった。見事に鍛え抜かれた筋肉が露わになっている浅黒い上半身には、多数の縫い傷が痛々しく張り巡っている。
腰には脹ら脛まで届く黒い布を巻いており、そこから覗く足には何重にも包帯が巻かれていた。
そして、顔には犬の顔を象った真っ白な面を被っていた。
両目の穴からは赤い眼光が射抜くように少年を捕らえている。
「ひッ‥‥!?」
少年は無言の男から発せられる威圧感に当てられ、尻餅をついてしまう。
長い距離をあの男から逃げ、肉体的にも精神的にも疲れ果てた少年に立ち上がって逃げる気力など残ってはいなかった。
ただ、ゆっくりと少年に向かって歩き出した男を涙を流しながら眺めていることしか出来なかった。
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