Il mio tesoro

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 泣きそうになっていることに気付いた瞬間、もうありえないくらいポロポロ涙が出てきた。  でもそのときはもうすでに良哉は部屋のドアをぴっちりしめて、わたしの声が届くところにはいなかった。  わたしは自室に引っ込んでボストンバッグにものすごい適当に着替えを突っ込んで、財布と携帯をポケットに入れて家を飛び出した。  出て行った足音は聞こえていたはずなのに、良哉が追ってくる気配はなかった。 *  目を開けると、見慣れているけどいつもと違う天井が目に入った。  一瞬あれ、と思ったものの、そういえば実家に帰ってきたんだったっけか、と思い直す。  深夜タクシーを飛ばして突然なんの連絡もよこさずに帰ってきた娘に、お父さんは「連絡くらいよこしなさい」と少し怒っていたものの、二人ともすんなり寝床を用意してくれた。  携帯の時計を見ると昼過ぎだった。  会社には有休で休むと昨日家を飛び出した時点で伝えてあった。  部長に代わってもらい、妊娠していることを伝えると、おめでとう寂しくなるよと言ってくれた。  けど昨日からのあれだったからおめでとうと言われてもこれっぽっちも嬉しくない。  来週中にはやめると言った。  大丈夫かと気遣ってくれたが、大丈夫ですとごり押ししておいた。
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