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俺は、白い牡丹が大好きだ。
儚げで、それなのに、繊細で凛とした存在感がある。まるで、兄のようで。
庭の牡丹のような白い肌も、風になびく度にキラキラと輝く茶髪も、翡翠のような瞳も、全てが綺麗で、大好きだ。
身内の贔屓目を無しにしたって、兄は美人だった。
そのうえ優しくて、勉強もできる。
ただ、一つ。兄のただ一つの欠点。
身体が弱いのだ。齢一四にして、兄の余命はあとわずかと告げられている。本当は、今だって入院しているはずだった。
けれど、あとわずかの命ならばと、家で過ごしたいと、そう言った。
美人薄命。まさにそれ。
絶世の美人と言える兄。俺の一番の憧れ。
その兄の意識が、七月、とうとう無くなった。
生きてはいる。ただ、目を覚まさないだけ。そうなってしまった兄は、入院せざるを得なくなってしまった。
涙はいつになっても枯れてはくれない。涙を拭ってぼやけた視界を鮮明にすれば、映るのは認めたくない現実ばかり。
俺はいつになっても泣き止むことが出来ずにいた。
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