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父は多忙で、あまり病院に来る時間が無い。たまに来ても、直ぐに帰ってしまう。 薄情だ。自分の子供が苦しんでいるのに、妻が泣いているのに、仕事ばかり。 社長なんだから忙しいのは判ってる。それでも、八つ当たりをする場所が俺には必要だった。 その日も、昼間から俺と母は病院にいた。 一滴ずつ落ちていく点滴。一滴が落ちる度に、それだけ時間が経って、それだけ兄の余命が減っていくのを感じていた。 命の重さ何て、十一才の俺には計り知れない。兄が死ねば、その重さに耐えきれずに潰されるのは確実だった。 「……美一」 蚊の鳴くようなその声に、遠くにいっていた俺の意識は瞬時に吸い寄せられる。 見れば、兄がうっすらと目を開けて俺を見ていた。 「兄様!」 俺と母は、喜びながらも慌てて兄の声に耳を寄せた。 「牡丹は、咲いてる?」 「……兄様、もう八月になります。牡丹は……」 「そうか。もうそんなだったね。忘れていたよ。私が倒れて幾日経つ?」
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