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それを知ってしまった俺は、もちろん姉の婚姻には反対だった。
けれど、言えない。一番辛いであろう姉が必死に耐えているのだから、それを踏みにじるようなことは、決して、やっていいことではないから。
綺麗に化粧をして、上等な着物を着た姉を横目に見た。車内は走行音すら聞こえず、自分以外の時間が止まったかのように無音だった。カーテンもしめられた窓の向こうを見詰めていた姉が、ふと俺を振り返る。
「何? 昌(しょう)」
「ううん。……優しい人だといいね、結婚相手」
「そうね……そうだといいなぁ」
表情は相変わらず落ち着いていたけれど、今にも泣き出しそうな声をしていた。
俺が姉から顔をそらすと、姉は、俺の手をギュッと握りしめる。
もう一度姉を見ると、胸を揺らしながら泣くのを必死に堪えていた。
俺と変わらない歳の姉。俺と変わらないはずなのに、女だって言うだけで、俺より二年も早くに家を離れてしまう。
一生添い合う相手も決められて、その人のもとで暮らさなければいけない……。俺がもし姉の立場だったとき、俺は堪えられるだろうか。
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