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下の階から母の詩音が呼んでいる。
「じーん、ご飯よぉ」
ベッドから腰を上げ、制服に着替え、下に降りる。
食卓ではすでに父の燵磨(たつま)が座り、同じ誘拐事件のニュースを見ていた。
「おはよぉう」
燵磨は眠気がとれていない声で陣に挨拶をした。
「おはよう、親父」
燵磨はなんでも屋を営んでいる。よく家に電話がかかってくるから、仕事は安定しているのだろう。
父に対して仕事の話を聞いたことも聞かされたこともなかったが、とりあえず学校に行き、ご飯が食べられるというだけで陣は父の仕事に小さい頃から深入りはしなかった。
食卓へ食事を運ぶ詩音には少し不安げな表情が映っている。
無理もない。こんな事件が起きてるなか、息子に何か起きないか心配なのは当然だ。
事件発生以来、パトロールを増やすなどの対応をしたにも関わらず事件はまだ起こっている。
クラスの中では数人、学校に来てない生徒もいる。
陣の両親も、一度は学校へ行かなくてもいいと言ったが、陣は拒み学校へ行くことにしている。
「陣は大丈夫だな」
燵磨がポツリと言った。
「なんでだよ?」
理由はわかっていた。
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